権利補償と通損補償
補償には権利補償と通損補償がある
補償の中心は、公共事業のために収用される土地等の権利に対する補償、つまり権利補償(土地等の買収対価)です。
しかし、収用は権利者の意思にかかわらずその土地等を強制的に取得する手法なので、収用される権利に対して補償されればそれでよしということはできません。収用に伴って権利者は他へ移転してこれまでと同程度の生活を再建しなければならないのです。そして、その際に引越代等の損失・費用負担が発生しますが、これを権利者に負担させることは公平性の原則に照らして許されないので、土地収用法や補償要綱では、権利者が移転に伴って受けるこれらの損失・費用負担を補填するために「通常受ける損失の補償(「通損補償」といいます)」として権利補償とともに補償すべきものとして取り上げています。土地収用法で規定する「損失の補償等」は権利補償と通損補償を併せた概念ですね。
通損補償の適用要件
通損補償として補償されるためには次の要件に該当することが必要です。
- 収用と相当因果関係をもつ損失であること
収用と相当因果関係にありながら、権利補償として取り上げられない損失が対象になります。したがって、将来得ようとする期待利益が収用により喪失したという場合、それは通損補償の対象にはなりません。 - 財産上の損失であること。
精神上の損失は補償対象になりません。収用によって権利者は精神的苦痛を被るかもしれませんが、これは受忍すべき権利者の義務であるととらえられています。
- 損失が受忍限度を超えるものであること。
例えば、これまでと比べて駅までの距離が多少遠くなる場合に生じる労力や交通費の負担は補償されません。それくらい我慢できるでしょうということです。
再開発事業での取り扱い
なお、第一種市街地再開発事業では都市再開発法91条に権利補償、同法97条に通損補償が規定されています。同事業は土地や建物を再開発ビルに置き換える「権利変換」が原則なので、権利者本人が権利変換を望まないので自分の権利をお金に換えたい旨を施行者に申し出たとき(この申し出を「金銭給付の申し出」といいます)に91条の規定により権利補償が適用されることになります。